神戸・御影にある『喫茶店ダンケ』を私が知ったのは、先日訪れた神戸で、神戸に暮らす友人が私に「おススメの喫茶店があるの」と教えてくれたからでした。

「バターブレンドの珈琲が有名なの」 「バターブレンドって、なに?」 「焙煎するときに、バターを入れてるんだって」 「珈琲に、バターの味が、するの?」

友人は少し考えるように首を傾げ、一呼吸おいてから答えました。

「珈琲の中にバターの味は、しないけど」

彼女は職業がパティシエであるため、きっと味や風味に対する感性が、私の何倍も鋭敏であることを思い出しました。

「飲みやすい珈琲でね、バターの味はしないけど、飲み終わった後に、ふわっと香るよ。きっと気に入るから飲んでみてほしい」

そう言ってもらい、私も興味を持ったのだけれど、二泊三日の神戸旅行は、ぎちぎちに詰められた予定に従うのが精いっぱいで、郊外にあるという『御影ダンケ』を訪れる時間が取れないまま、私は新幹線に乗って神戸を去ることになってしまいます。

「また今度ね」 「うん、また」

そう言って友人と別れ、東京に戻りましたが、私は行くことが出来なかったバターの気配の香るという珈琲のことを忘れられないまま、それからの日々を過ごしていました。

年が明け、忙しくしていた仕事の合間だったでしょうか。 「私は食べ物の仕事をしているから、本当に美味しいものしか、美味しいって言わないの」 友人のそんな言葉が不意に耳の中で再生され、私は出会うことが出来なかったバターブレンドコーヒーのことを思いました。

googleを開き、『バターブレンドコーヒー』と入力すると、すぐに訪れることのできなかったお店の名前とそれに関するページが画面の中に表示されました。

『御影ダンケ』

――そう、そういう名前だった。 そこに示されている他の人の感想やレビューを読んでいるうちに、訪れたことのない『御影ダンケ』が身近なものであるように思われてきたのが不思議に思われました。

「バターの香る珈琲」 訪れた人がくちぐちにそう評し、地元の人に愛されるお店であることは、記事を読んでいると染み込むように伝わってきます。 ――きっと素敵なお店なんだろうな。 仕事の合間の時間の、空想に、私は訪れることのできなかった場所を想いました。

「東京に出店」 「久しぶりに訪れることのできた変わらぬ味」

流し読みしていた記事の中で、上記の言葉が目に留まります。 リンクを辿ってみると、それは私がたった今、想いを馳せていたお店が、東京・それも私にとって身近な場所である吉祥寺の一角に支店を開いたというニュースをつげるものでした。 地図を辿ると、数年前には毎日のように歩いていた区画です。

――今、これを思い出したのも。 ――最近、このお店が出来たということも。 ――私がたった今、夢想したバターブレンドコーヒーを、確かめに行くためのことであるような気がする。

迷うことなく、私はその場所を訪れることを、休日の予定に組み込みました。

前置きが長くなってしまいましたが、夢想を経て、やっと訪れることのできたダンケについて、書こうと思います。

暫く訪れていない間に、吉祥寺の駅は大きく様変わりしていて、私の知る道順との違いに戸惑いつつも、何とか駅を北口に出て、ロータリーに向かって右手、線路沿いに歩き出しました。 はらロール、はらドーナツが並ぶ高架下に沿って幾らか歩くと、道が少し狭くなった先の路面沿いに、ダンケは存在していました。

ビルの一階に店を構えるダンケは、関西風のしつらえに拘る喫茶店と言うよりも、バターブレンドコーヒーを誇りに、美味しいものを東京の人へ伝えるべく店を出したのだろうという印象を受けました。

店内は広いとは言えません。カウンターと、幾つかのテーブル。一人で店に入った私は丸椅子の並ぶカウンター席に座り、メニューを覗き込みました。

「うちの珈琲は全てバターブレンドなんですよ。カフェオレやアイスもできますので、お申し付けください」

かけられた声に「はい」と応え、私はメニューの中から 「バターブレンドコーヒーと、あとケーゼクーヘンをセットで」とお願いしました。

ケーゼクーヘン。 ドイツ語でケーゼはチーズ、クーヘンはケーキを意味します。 コーヒーと相性の良いケーキとして、選ばれるチーズケーキが供されるものだと、何も考えず予期していた私の前に運ばれたのは、予想を大きく裏切る食べ物でした。

説明するとしたら、これはそもそもケーキではありません。 イングリッシュマフィンのようなものに、味の濃いチーズを上部に塗って、六つに切り込みを入れて焼いて、チーズが焦げてとろけたその上に、甘く重めのホイップが丸く乗せられています。 切り目に沿って一区切りをちぎると、口いっぱいに頬張れるぎりぎりの大きさになり、それにホイップをつけて頬張ると、香ばしいチーズと、ふかふかのマフィンと、ホイップの甘さが口いっぱいに広がる、得も言われぬ未知の美味しい食べ物だったという説明しかできないものでした。

「何これ美味しい!食べたことのない食べ物だけど美味しい!」 きっと同行者が居たとしたら、私はそう言って、同意を求めていたと思います。一人きりだったので、私はその言葉を一人で噛みしめながら、マフィンが冷めてしまう前に、チーズの香りが飛んでしまう前に、これを味わってしまわなくてはという義務感に押され、私は初めて食べた『ケーゼクーヘン』を黙々と食べ続けました。

同時に供されたバターブレンドコーヒーは、友人の評した通り、間違いのない「飲みやすく、飲み込んだ後口にふわりとバターの香りの余韻の残る一杯」でした。 これがケーゼクーヘンと相性のいいこと。 これはきっと、実際に食べた人にしか同意してもらえないと思います。

神戸は、全国に名だたる洋菓子の老舗を多く抱える、全国一の激戦区であるという側面を持つ街でもあります。 御影という、芦屋近くの高級住宅地は、神戸の中でもその意味を一層強く帯びた地域で、そこでパティシエとして働く友人のお墨付きの『地元の人に愛される美味しいもの』が東京で味わうことが出来るようになったのだということ。

これって、一つのニュースなのではないでしょうか。

この文章を読んで、興味を引かれた方は、是非吉祥寺まで足を運んでみて下さい。 上記の感想が、誇張ではないことに納得して頂けると思います。

追記 写真がうまく上げられないので個人のブログの方に、写真を貼りました。 写真見たい方は、リンクから覗いてみて下さい♡

このスポットの情報
スポット名 ダンケ 吉祥寺店
連絡先 0422-22-8333
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町1-32-11 吉祥寺YKビル 1F
定休日 無休
営業時間 [月〜土] 11:00~23:00 [火] 11:00~19:00 [日・祝] 11:00~10:00 日曜営業