初台駅に隣接する大型の文化エリアといえば、新国立劇場と東京オペラシティ。国立の施設である新国立劇場と、民間企業が集まってできた東京オペラシティが敷地内に同居し、一大文化エリアを形作っているという、国内でも類を見ないスポットなのです。
今回達人としてご紹介するのは、東京オペラシティのコンサートホールで音楽プロデューサーを務める、国塩哲紀さん。
ここで上演されるクラシック音楽のコンサートと、年1回行われる武満徹作曲賞の企画・運営を行っています。
そもそもこの東京オペラシティ内にはクラシック音楽専門のコンサートホールとアートギャラリー(美術館)の2つの施設があり、そのなかのコンサートホールは1997年の9月10日に小澤征爾指揮のサイトウ・キネン・オーケストラ他によるバッハの「マタイ受難曲」によってオープンしました。
コンサートホールには「タケミツ メモリアル」という別名もついていますが、それは作曲家の故・武満徹さんの名前から。オペラシティがオープニングするにあたってホールのコンセプトづくりや設計等にたずさわり、芸術監督としてオープン当初のコンサートの企画・監修を行ったことから名付けられました。
●本当によい演奏を皆に聴いてもらいたい
国塩さんは、このコンサートホールができた当初からコンサートの企画・運営を行っています。企画を行う上で目指すのが、「自分の企画でホールが満員になる」ということ。言葉にすると簡単そうですが、実際に実現するのは10年この仕事をしてきて1回か2回という難しさなのだそうです。
「お客さんを満員にするという目的だけなら、テレビに出ているような人気のある演奏家を呼べば簡単な話です。でも、僕が目指すのは、知名度にこだわらず、自分がほんとうにレベルが高いと思った演奏家を呼び、お客さんに感動してもらうということなんです」
しかし、クラシック音楽のコンサートと聞くと、「なんだか敷居が高くて自分とは縁がなさそうだな…」と思う方は多いはず。それは、クラシック音楽の性質上仕方のないことなのだと国塩さんは語ります。
「クラシック音楽って、お茶の間に定着しにくいんです。テレビでは放映し辛いんですよ。2〜3分の歌謡曲と違い、クラシック音楽の曲は短くても10分や20分、長ければ数時間というものもあります。1曲を中断してCMを入れるわけにはいきませんから、、クラシック音楽専門の番組を作るのは非常に難しいですよね」
これでは自然と、クラシック音楽の曲は大衆に認知されにくくなってしまうわけですが、だからこそ国塩さんはもっとクラシック音楽のファン人口を増やすべく尽力しています。「確かにクラシックは曲が長く、難しい。しかし、クラシックを全然知らない人でも、素晴らしい演奏に触れたらびっくりするものなんですよ。本当によい演奏に巡りあって、心の底から感動したら、終わったあとに言葉が出てこないこともあるんです。もちろんそんな感動に立ち会えるのは一生のうちに数えるほどですが…。しかし、そのような感動を演出して、東京オペラシティの企画はいい、選曲がよくて演奏が素晴らしいと多くの人に思ってもらいたいですよね」
確かに自分の企画したコンサートがきっかけでクラシック音楽に夢中になる人が増えたら、それこそ仕事冥利につきるというものかもしれませんね。
●音楽コンサートと美術展がコラボした、東京オペラシティならではの企画
また、国塩さんがコンサートの企画を考えるにあたって大切にしていることは、「東京オペラシティらしさ」を打ち出すこと。
ホールに来るお客さんは、さまざまなホールで数多くの演奏を聴いているので耳が肥えています。だからこそ、東京オペラシティの存在感を高めていくことが大切なのだそうです。
具体的にどのようなものがオペラシティらしさなのかと言われると、それはまだ模索中だそうですが、「これこそがオペラシティらしさだ」といえるイベントのひとつが、2006年に行われた武満徹さんの没後10周年を記念した一大プロジェクトといえるでしょう。このとき東京オペラシティでは、コンサートホールとアートギャラリーが連動し、さまざまな催し物を行いました。
武満徹さんご本人が現代音楽の巨匠であるだけでなく、映画音楽の作曲家としても非常に有名で、しかも交友関係が広く、音楽に限らず絵画や文学、思想に至るまでさまざまなジャンルに影響を与えた方だということで、この連動企画が実現したのです。
「具体的には、アートギャラリーの企画展で武満徹さんの展覧会を行い、その2か月の期間内にコンサートホールで武満徹の演奏会を2回行ったのですが、これが大成功。現代音楽の演奏会だけで満席になったんですよ」
コンサートホールとアートギャラリーが連動するにあたっては本当に調整が大変で、次に似たような企画が実現できるのは何年後なのかは分からないのだとか。しかし、同じ敷地内に音楽ホールと美術館があるという強みを生かすということこそが、他のどの音楽ホールにもない特徴を強く打ち出せるのかもしれませんね。
●世界の偉大な作曲家を招いて行う作曲コンクール
さて、国塩さんは、年に一度行われるオーケストラ作品の作曲コンクール、「武満徹作曲賞」の企画・運営も手掛けています。毎年世界的に有名な作曲家を1名だけ審査員として招き、若手作曲家による応募曲のコンサートが行われるのですが、このイベントには企画から開催までなんと4年もの歳月がかかるのだとか。それには、このコンクールの個性も影響しているようです。
「通常のコンクールでは審査員が数名いるのが普通です。しかし、この作曲賞では審査員がひとりだけ。だからこそ、審査結果には審査員の個性が100%反映されます。これは、東京オペラシティがオープンするにあたってさまざまな協力をしてくださった武満徹さんのアイディアなんですよ」
有名な作曲家を招くからこそ、何年も前からスケジュールを押さえる必要がありますし、応募者は審査員の嗜好に合わせて曲を作れるように、前から告知しておく必要があります。そういうわけで、現時点ではすでに2012年まで審査員が決定しているのです。
また、武満徹作曲賞のコンクール開催期間は、ただ応募曲を演奏して審査するだけではありません。せっかく偉大な作曲家を招くわけですから、その作品の演奏会も行われるのです。この演奏会にあたっては、「作曲家の音楽を再現するにはどの演奏家を呼べばよいのか」というところまで国塩さんが考え、国内だけでなく、海外も視野に入れて演奏家を探します。実際にオファーをし、招聘して演奏してもらうまでのさまざまな調整ごとを考えれば、確かに4年前から着手しても決して早くはないのです。
大きなお金を動かし、多大な調整をこなす音楽プロデューサーの仕事は、実に神経を使うものですが、この仕事のやりがいというのは、やはり世界でトップレベルの作曲家や演奏家、指揮者と実際に会えることだと国塩さんは語ります。
「生きている偉大な作曲家と実際に会って仕事ができるというのが、なによりのやりがいだと感じています。特に今年の審査員として招いたスティーブ・ライヒと一緒に仕事できたことは、人生の財産でした。この方は今や世界文化賞を受賞するようなカリスマ中のカリスマで、クラシックだけではなくさまざまなジャンルで活躍しており、演奏会にはクラシックファンのみならず様々なジャンルの音楽関係者が聞きに来たりするような方なんです。そういう方と僭越ながらお仕事でご一緒できる機会を得られたわけですから、そのこと自体がもう自分の人生の中で忘れられない話ですよね」
しかし、そんな偉大な作曲家と会えても、決してファンの気持ちでは接しないというのが国塩さんのポリシー。そこが音楽プロデューサーのプロ意識というものなのでしょう。
●天然の木とともに成長し続けるコンサートホール
トップレベルの演奏者、練りに練られた選曲で上質なクラシック音楽の演奏会が行われる東京オペラシティのコンサートホール。高い天井に大胆な変形ピラミッドの構造、そして内装には振動体・共鳴体として天然木が使われており、クラシックの楽器の音色を最大限効果的に引き出すような設計になっています。
この天然木を使っているということが、コンサートホールの最大の魅力だと国塩さんは語ります。
「僕はめったに客席でコンサートを聴くことはないのですが、この前久々に客席で聴いたら、ホールの音が完成当時よりもよくなっていると感じたんです。完成当初はどことなく堅い響きだったのが、こけら落としからの10年のうちに内装の木が響きに応じて経年変化して、反射した音が熟成しているんですよね。上質な演奏が繰り返し行われると、ホール自体もいい響きをするようになってくる。楽器と同じだと感じました」
もちろんホールの音響が熟成されるためには、よい演奏を行うだけでなく、よい状態に保つための細心の注意も欠かせません。
ホールで保管されているオルガンやピアノ、チェンバロなどの大型の楽器は、劣化しないよう温度や湿度を一定にするためにほぼ1年中空調を回しているのだとか。世界中見渡しても、そこまで神経を使っているホールはなかなか見当たらないようです。
このホールの響きや楽器の状態が評判を呼び、現在国内、海外を問わず多くの演奏家から演奏したいという申し込みが東京オペラシティに殺到しているそうです。
国内でクラシック音楽専門の音楽ホールというのは数少ないもの。クラシック音楽のために設計された空間で、ゆったりとした座席に包まれながら、至福の音楽で満たされるという贅沢を味わってみるのもいいかもしれません。
また、コンサートだけではなく、アートギャラリーにも立寄って、視覚と聴覚のセンスを研ぎすます芸術浸けの1日を送ってみるのも素敵な休日の過ごし方かもしれませんね。
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東京オペラシティ コンサートホール
住所:
〒163-1403
東京都新宿区西新宿3-20-2
URL:http://www.operacity.jp/
初台駅東口下車すぐ
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掲載日付:2008/10/01