府中駅近くの大國魂神社周辺は、江戸時代に甲州街道の宿場町として栄えたところです。街道を歩きながら周囲をよく見ると、老舗の商店が点在していることが徐々に分かっていくはず。その中でも約200年の歴史を誇る老舗が、和紙の専門店「紙よし村」です。
今回の達人である、福井隆さんは紙よし村の11代目店主(写真-上)。お店の創業年を記した資料は火事で焼けてしまったため残ってはいないのですが、焼け残った江戸時代の文献を見る限りでは、11代将軍家斉の時代にはもうお店は営業していたようです(写真-中)。
●コンクリートと木と紙が同居するお店
紙よし村は、大國魂神社の隣にある、コンクリート造りのビルの中にあります。一見「これが本当に老舗なの?」と思ってしまう外観ですが、ひとたび中に足を踏み入れると、木造の昔ながらの商家の建築様式が残っていることに驚きます。
このような外観と内観のギャップがあるのはなぜかというと、1980年代に旧甲州街道の拡幅工事が行われることになったから。もともと木造建築だったお店を、道路の幅に合わせて移転したとき、消防法の新たな基準でコンクリート造りにしなければいけなくなったのだそうです。
「紙っていうのはワインと一緒で、できたてよりも、できて10年後くらいの風合いが一番いい。でも、その状態に持って行くための保存法は、とても神経を使うものなんです。紙の保存に一番適しているのは、湿気がほどよく抜ける木造建築。だから、外側がコンクリート造りでも中だけは木造にしようってことで、もともと蔵に使っていた木材を内装にあてたんです」
紙の専門店が姿を消していく現在、紙の保存に一番適した店鋪設計が分かる建築士などなかなかいません。そこで、福井さん自ら店のスケッチを起こし、紙の保存に最適の設計をしたのだとか。
「外壁は打ちっぱなしのコンクリートにして水分を飛ばせるようにしています。暖房は床に温水パイプを通して下から温める仕組みに。壁はコンクリート・断熱材・木造建築の三層構造にしているんですよ。お金はかかったけれど、改装開店で訪れたお客さんが『ずいぶん古いお店ですね』なんて言ってくれたときに、『しめた! 目論見はあたったぞ!』と思わずニンマリしてしまいましたよ」
時代の流れに身を委ねながらも、伝統の良さを守っていくという心意気は決して消えることはないのでしょう。
●本物の良質な紙に触れてほしい
紙よし村では障子紙や千代紙など、さまざまな用途の和紙が勢揃いしています。ひとくちで「障子紙」といっても店内にはかなりの種類の和紙が置かれていて、県外からも「紙よし村へ行けばあの紙が見つかるかもしれない」とわざわざ訪れるお客さんが多いのだとか。逆に「種類が多すぎて何を選べばいいのか分からない」という場合は、福井さんに「どんな用途で、どの程度持てばよいのか」ということを相談すれば、ぴったりのものを選んでもらえるのだそうです。
そんな紙よし村のこだわりは「本物を扱うこと」。驚くことに本当に上質な紙は、水に入れても溶けないし、めったに燃えないものなのだそうです。100年や200年も長持ちすることがあるというから驚きですよね。
「本物を扱うということが商売として矛盾していることも確かです。よい紙を売れば、長持ちする分新しい紙が売れにくくなる。紙なんてどんなに高くても1枚数百円の世界ですから、儲けなんて微々たるものです。紙をそのまま食べられる、ヤギやヒツジがうらやましいですよ」
確かに住まいは洋風のものが主流になり、障子やふすまが減りました。その結果、今多く使われている紙といえば、トイレットペーパーかコピー用紙なのではないでしょうか。
「でも、目先の儲けにとらわれて、安い紙を大量にさばくことは考えていません。和紙というのは江戸時代に藩の財政を担った貴重な地場産業であり、そこにはそれぞれの地域の風土に根ざした風合いがあるんです。そういったものを守る為にも、本物を扱い続けたいんです」
目先の利益を求めることは、ハイリスク・ハイリターンであるとも、達人は語ります。
「今でこそガラパゴスゾウガメが有り難がられているけど、あれだって昔はたくさんいたんだと思います。周りに流されず、ゆっくり歩いて極力変化をしないようにしたから、あれだけ貴重な存在になってしまった。老舗も同じで、変わらずのんびり続けて次世代につなぐのが一番なんじゃないかなあ」
この記事には続き(後編)があります。
続きを読む
information=============================
紙よし村
〒183-0022
東京都府中市宮西町2-17-2
TEL:042-361-2022
営業時間:9:30~18:30(毎週日曜休、及び不定休)
京王線府中駅徒歩5分
========================================
掲載日付:2008/04/16