沿線の達人/小薬一夫さん(東京都埋蔵文化財センター 発掘調査員)・前編

京王線相模原線急行で新宿から約40分の位置にある、京王多摩センター駅。商業施設が整然と立ち並び、親子連れで賑わう、多摩ニュータウンの中心的なエリアといってもよいでしょう。

この駅で下車し、ビルの谷間をすり抜けて5分ほど歩いた場所にひっそりと佇んでいるのが東京都埋蔵文化財センター。施設では付近で発掘された遺物や復元模型が展示されており、隣接する遺跡庭園「縄文の村」では縄文時代の住居や当時の植生が再現されています。
この埋蔵文化財センターで長年発掘調査員として遺跡の発掘を行い、現在は施設内で縄文土器作り教室をはじめとするイベントの企画、実行を行っている小薬(こぐすり)一夫さんが今回の「達人」です(写真-上)。

●さまざまな形で利用されてきた多摩丘陵の地形

多摩ニュータウンの現代的な街並に、考古学の施設があるという事実は、一見唐突な印象を受けるもの。しかし埋蔵文化財センターが多摩センターに設置されたのは、多摩ニュータウンの歴史と大いに関係があるのです。
「昭和40年代に、多摩ニュータウンの計画が持ち上がったとき、このあたりの発掘調査を行うことになりました。当初は人があまりいない丘陵地だったので、たいした量の遺跡は出てこないだろうと考えられていたのですが、調査を進めるにつれて、900箇所以上の遺跡があるということが分かってきました。これは急ピッチで発掘調査を行わないと予定通りに開発が進まないだろうということで、この多摩センターの地に本拠地を置き、スタッフを増員して発掘調査を進めていくことになったんです」

この多摩ニュータウンでは、縄文時代のものが多く出土し、その後弥生時代に入るとほとんど遺跡がなくなってしまうそうです。これは多摩ニュータウンの地形が原因なのだと達人は語ります。
「縄文時代は狩猟採集の時代ですから、丘陵地に生息する猪や鹿を食糧にしていたのでしょう。しかし、弥生時代に入り、水田で稲作が行われるようになると、このような丘陵地では水稲耕作に適さないため、人々は港北や相模原の台地へ移住してしまいました。しかし、その後奈良時代や平安時代に入るとまた遺跡の数が増えてきます。これは多摩川を越えた場所に国府や国分寺ができることになり、丘陵地の斜面を利用して、役所や寺の瓦や役人の食器を焼く窯が作られたからなんですね。時代時代によってこの土地の機能が違うんですよ」
出土する遺跡や遺物から、多摩丘陵の持つさまざまな顔が浮かび上がってくるものなんですね。

●体力と緻密さが要求される発掘の仕事

今回の達人、小薬さんも、この埋蔵文化センターを拠点にして30年間発掘調査を行ってきたベテラン調査員。この発掘調査の仕事というのはどのようなものなのでしょうか。
「発掘調査と聞いてまず思い浮かべるのは、刷毛を使って周囲の土を慎重に落として行く作業かと思います。ですが、あれは発掘作業の仕上げの1割くらい。作業の9割方はシャベルでを持って、遺跡の近くまで穴を掘っていくんです。雨の日は中止になりますから、だいたい炎天下の中で土と格闘していくことになります。職員はたいてい腰を傷めていますよ」

重労働といっても過言ではない発掘作業のあとに、昔の住居跡や、土器片などが出て来たら、それを記録していきます。遺跡発掘というものは開発の前に行われ、出土したものは記録した後に埋めてしまうものなので、この記録作業が発掘調査の肝ともいえます。
「写真撮影だけでは影になって見えない部分も出てきて状況を伝えきれないので、正確に形状を計って手書きで記録します。住居跡のどこから土器片が出てきたのか、掘られた穴にはどのような形で土がかぶっていたのか、土器の模様はどうだったのかなど…。埋めてしまった遺跡のあとを、その手書きの図からどれだけ再現できるかというのが大切なんですよ」
過酷な肉体労働と、緻密な記録作業。発掘作業は想像を絶する激務ですが、その仕事の原動力は古代へのロマンだと達人は語ります。
「土器を見ていると指の跡が残っているときもあるんですね。ここに手をあてると、『これを縄文人が触っていたんだ!』と感慨深い思いに浸ってしまいますよ」
発掘調査の魅力とは、約5000年の時を経て古代人と会話できることにあるかもしれませんね。

information=============================
東京都埋蔵文化財センター
〒206-0033
東京都多摩市落合一丁目14-2
URL:
http://www.tef.or.jp/maibun/
京王相模原線京王多摩センター駅より徒歩5分
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掲載日付:2007/08/29
後尾明子

沿線ライター
後尾明子 さんによって書かれた記事です。

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