東京にてカメラを提げてうろうろするとき、私はたいていひとり歩きをしている。たまに盛岡で暮らしている夫が上京してくる日には、共にカメラを手に出かける。夫の名は、仮に「モリオ」としておく。
お互い行ったことのなかった「京王百草園」へ向かう。百草園駅をおりてからの道中はけっこうな急坂で、へなへなになってのぼる。その様子をモリオにからかわれる。でも、息が切れて言い返せない。「あとひといき」とある看板から先がいちばん急になっていた。
門をくぐり、入園料300円を払ってからも、とりあえず目の前の石段を、それからもっと山らしい坂を、上へ上へとのぼりつづけた。 眼下にかやぶき屋根が見える「見晴し台」まで。どんぐりのなるような木の枝葉が、額縁のように、遠景をふちどる。空気が透明な日には屋根の向こうに望めるらしい東京タワーは、今日の天気の中には見つけられない。
かやぶき屋根を目指して下っていくと、池に出た。まわりは立派な古木を中心とした梅林になっている。どこか古都の匂いがする。梅は、緑の葉に緑の実が、お揃いで綺麗。園内には、梅の花ではなくて、この季節の実を詠んだ短歌の刻まれた碑があった。
<拾ひつるうす赤らみし梅の実に木の間ゆきつ歯をあてにけり>
若山牧水の作である。彼は、23歳のときにここへ恋人と一緒に来たそうだ。翌年にはひとりで再訪、この歌を詠んだとのこと。
掲載日付:2007/06/27