切り絵風景ハンティング/神泉:街はぴライター 投稿記事

切り絵風景ハンティング/神泉
【文化・歴史】【全線】
久保修」さんによって書かれた記事です。  
 京王井の頭線神泉駅を降りて南西に進むと、高級住宅地として名高い「松涛」がある。
この松濤という土地は、江戸時代、徳川御三家のひとつ紀州徳川家の下屋敷があったところで、それが佐賀鍋島家に下賜され、「色の静岡、香りの宇治、味の狭山」と称される狭山茶を移植して「松濤園」という茶園を開き、同じく松濤という茶を販売していた。これが現在の地名の由来である。たしかに高級住宅地にふさわしい風雅な名である。その後、交通網が発達して各地の銘茶がどんどん東京に入ってくるようになると、ここでの茶の経営が難しくなり、茶園は閉園。果樹園を経て現在の高級住宅地になった。
僕は今回、戸栗美術館と渋谷区立松濤美術館へ行こうとこの町に来た。さすが松濤と言われれば「高級住宅地」というイメージの通り、住宅と言うより邸宅が並ぶ。およそ人が住んでいるのかと思われるくらい静かで生活感がない。静かな邸宅地をゆくと立派な美術館に出た。目指す戸栗美術館である。ここは一貫して陶磁器を中心とした美術品を蒐集し、その数約3000点。伊万里、鍋島磁器および中国・朝鮮の陶磁器が収蔵されており、年4回、テーマごとに企画展示を行っている。
早速見学する。僕は展示された磁器の数々に圧倒され、時間を忘れて食い入るように魅入ってしまった。思わずため息が出てしまったのも我ながら無理もないことだと思う。長い歴史をかけて作り出されてきた磁器の優美にして気品のある形、そして何よりも心奪われたのは、染付け師たちによる、その見事なまでの染付けの数々だった。その“もの”自体は古いのに、線や構図に古さを全く感じさせない。どれもが斬新で美しく、真の芸術とは決して古びることはないと改めて思い知らされた。
興奮した気持ちのまま、次に渋谷区立松濤美術館へ行く。途中に一画、緑の濃いところがあり、行ってみると公園があった。「鍋島松濤公園」とある。小さな公園ではあるが、中央に水車と池があった。湧水が出るらしい。
公園に集う人々は外国人も多く。それぞれベンチに腰掛け、思いおもいの様子で水面や水車を眺めている。外国人の子どもたちがブランコに乗ったりかけっこをしたりしている姿と、この公園の純和風様式とのギャップがなんだか面白かった。
うす柔らかい紅色をした花崗岩の外壁で建てられた、温かみのある雰囲気のこの松濤美術館は、分野・時代にとらわれず、幅広い芸術作品を企画ごとに展示している。それだけでなく、渋谷区に関連する展覧会も積極的におこなっているユニークな区立美術館だ。僕が訪れたときも渋谷区に在住の池口史子さんという女流画家の展覧会が行われていたし、またその前に開催していた大道あやさんという60歳にして画を描き始めた画家の作品展も非常に面白かった。
戸栗美術館と言い、松濤美術館と言い、また他の美術館もそうだけれど、やはり芸術に接すると巨大なパワーをもらえる。深い感動が身体を包み、周りの景色がどれも輝いて見えるようになる。いや、美術館だけではないかもしれない。外へ出て、自然や風景や人と出会ったときもそうだ。何か大きなパワーをもらえているような気がする。
僕はパワーをもらいたくて外へ出る。「何か」を得たくて外に出る。それは出会いだったり、感動だったり、喜びだったり、時には悲しみだったりもするけれど、それらすべてが僕の仕事の上で重要な役割を担ってくれる。イマジネーションの多くは、中にではなく、外に転がっている。だから僕はいつまで経っても外歩きがやめられないのである。
今回でこの連載は終わりだが、今日も明日も、何かを探しに、何かを得に、外へ出よう。自称‘散歩師’久保修は今日もどこかの街を歩いている。はずである。
掲載日付:2008/10/22
沿線ライター:久保修さん
ジャンル記事へ
よりみちナビ
全線
マタニティー用品やベビー用品...
ワヒネ さん
【全線】ショッピング
投稿日時 :2009/01/08
全線
新年 あけましておめでとうご...
らいおん さん
【全線】その他
投稿日時 :2009/01/04
全線
甘党ですか辛党ですかそう京王...
らいおん さん
【全線】その他
投稿日時 :2008/12/29
トップへ