切り絵風景ハンティング/分倍河原:街はぴライター 投稿記事

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切り絵風景ハンティング/分倍河原
【文化・歴史】【全線】
久保修」さんによって書かれた記事です。  
 季節が冬だと寒いのが当たり前で、いつまでも寒い日が続くかのように思われる。暦が変わっても暖かさを体感できないと、本当に春はやってくるのか疑いたいような気分になる。
とはいえ、寒い日は続くと言っても、春の足音はあちこちで聞こえる。うぐいすの初鳴きを観測したというニュースも報じられる季節となったのだ。そう、うぐいすと言えば梅の花。今回は、まだ冬の肌寒さが残る三月のはじめ、分倍河原の「府中市郷土の森博物館」へ行った話をしよう。
分倍河原の駅を降り、地図に沿って歩いていくと、近道と書かれた看板が立っていた。標識どおりに進むと家や工場などの合間に畑が残っている。今は農閑期なのだろうか。農作物の実りは少なかったけれど(それはたぶん、収穫された後なのだろう)、少し大きくなりすぎてしまったような大根がひょっこりと土から二、三本顔を出していて、大根好きとしてはヨダレが出てしまうほど食べたくなったが、我慢我慢と自重しつつ、先へ進む。野菜スタンドが畑の端にあり、農家の人が売っている。歩道沿いにあるので近所の人や散歩途中の人たちも足を留め、買って行く。その様子を横目で眺めながら、「多摩川かぜのみち」という遊歩道を歩いて行くと、いくらもかからないうちに目的の場所である「府中市郷土の森博物館」に到着した。ちょうど梅まつりという催しが開催されていた。
この催しは今年開館20周年を記念したもので、郷土の森において約60種1100本の梅の木を観梅できる。一歩園内に入り込むと梅見の客でいっぱいで、飴や針金細工、的射などもあり大人から子どもまで楽しんでいる。なかでも大人たちが懐かしい、と目を輝かせていたのが針金細工。粋な印半纏にいかにも職人、といった風情のこのおじさん、なんとこの道一筋55年(!)だと言う。
 「昔はどこでも縁日をやっていたから、ペンチと針金片手に北から南への旅烏。今じゃ、海外も行くよ。今年は北欧だ。なあに、言葉なんて最低限知っていれば大丈夫。あとは心でなんとかなっちゃうんだな」などと話ながら恐るべき速さで、かつ器用にピストルや三輪車をペンチと針金と輪ゴムだけでどんどん作って行く。
 子どもの頃、縁日へ行くとたしかにこういうおじさんがいて、それまでに大事に貯めたお小遣いでこの針金ピストルを買って、西部劇の真似をして遊んだなぁと懐かしい記憶が甦る。そう思うのはやはり僕だけではないらしく、ふと気がつくとおじさんの周りに集まっているのは子どもたちよりも僕らとか僕らより少し上の年代の人たちばかりだった。どことなく顔付きも少年の日に戻ったよう。口ぐちに懐かしいなぁと言い合っては次々と出てくる針金細工に目を輝かせ、おじさんの息の長い口上に聞き惚れている。(かく言う僕も同じで、もちろんおじさんの名口上の後は針金ピストルを買うのを忘れたりはしなかった。)その後は、屋台に並ぶ品を眺め、カメラ片手に園内をそぞろ歩く。
梅の木々の間に点在するのは、江戸時代から明治、大正、昭和初期までの建築物だ。この郷土の森は歴史や自然を学ぶために作られたフィールドミュージアムで、建築物を通して時代の変遷をじかに感じとることが出来る。例えば、稲作農家の旧越智家住宅などは今にも畑へ出る家族の話し声が聞こえてきそうな錯覚さえ起こってしまったほど。並びの水車小屋の水音に耳をすませば、やさしい水の調べに遠い時代を想う。
 梅の花に心癒されながら、ありし日々の人々の生活を想い、想像を豊かにする。
新年とはまた別に、新しい季節を前に気持ちが引き締まるような一日だった。しかし、まだ時季が早かったのか、うぐいすの初鳴きは聞けなかった。残念。
掲載日付:2008/03/26
沿線ライター:久保修さん
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