寒くなると、無性に歩きたくなる。こたつで丸くなるのは猫だけでなく人間も同じなのだろうが、僕はなぜか外へ出たくなる。何しろ、空気が澄んでいて気持ちがいい。吐く息が白いのもいい。あちこち自然を歩き回るのは僕の得意としたところで、そのうちだんだん体が温まってくる。歩き疲れて、木の下で休むのも気持ちが良いし、葉の落ちた木を見上げるのも好きだ。なにより、よく歩いた後の酒はうまい。歩きながら、今夜は何を飲もうかと考えるだけでも楽しい。うまい酒を飲むために歩く、との考えも否定できないがそれはさておきということで、今回僕が訪れたのは日野市にある平山城址公園。空は良く晴れ、一月らしい、明るくそして寒い休日。まさに歩くのに持ってこいの散歩日和である。
ちなみに、平山城址公園駅で降りたのは今回が初めてではない。知人が住んでいるので、何回かこの知人宅にお邪魔したことがあったが、城址公園へは行ったことがなかった。アトリエで京王線の路線図を見ながら、どこへ行こうかなと考えていたとき、僕はかねてより気になっていた平山城址公園へ行ってみようと思いついた。
駅を降りて案内図を見ると、城址公園から多摩動物公園まで歩いて行けるようだ。僕は足の向くまま気の向くまま、行けるところまで行ってみることにした。駅前の一本道を通って、街道に出る。信号待ちの時、となりに立っていたおばあさんにこの街道の名前を問うと、「北野街道」という応えが帰ってきた。この道は八王子館町から日野市高幡までを結ぶ東京都道173号上館日野線のことで、京王線もこの北野街道に沿って走っている。昔なつかしい田園風景も見られる、都内ではめずらしい街道だ。
「このあたりは夜になると暗くってねぇ、田んぼが多くて、外灯なんてほとんどなくって、うちの父さんは五反田の方まで通勤していたんだけど、朝早く出るときに懐中電灯持って出て行って、帰りはその懐中電灯をつけて夜道を帰って来たりしていたんだよ。そのくらいこの辺りは暗くて静かなところだったねぇ」とおばあさんは笑う。この辺りの話を聞かせてもらいながら公園までの道を辿っていく。
途中の住宅の庭に万両(マンリョウ)がたわわに赤い実を付けているのを横目で見ながら進んで行くと、生垣がアーチを作る家の前におばあさんが立ち止まった。同じくらいの年齢の男の人が近所の人と話している。その家の前に小松菜が並んでいるのが目についた。ここの家で作ったものだと言う。近所の人が「ここのお宅はイチゴもおいしいんだよ」と教えてくれる。その声が聞こえたのか、おじさんがにこにこしながら、ほら、というようにイチゴを持って来た。大きい! 普通の大きさのイチゴの2、3倍はある。「朝摘みだから、実がしまっていておいしいよ」と言って食べさせてくれた。これがとても甘くておいしいのだ。
「地産地消(地域生産地域消費、その土地で生産された農作物や水産物をその地域で消費するということ。スローフードの言葉とともに最近より一層見直されてはじめている)という言葉があるだろ、こんなに実がしまっていてみずみずしく新鮮なのは、今朝摘んできたばかりだからなんだよ。時間が経ってべちゃっとしたものとは比べものにならないほどおいしいだろう」。たしかに、おじさんの言うとおりだ。甘さが口いっぱい広がる。うまい!
これから平山城址公園へ行き、多摩動物公園まで足を運ぶと分かっていながら、無農薬の小松菜まで購入してしまった。イチゴのお礼を言い、教えてもらったとおりの道順で僕は歩き出した。細い道を辿っていくと、雑木林が見えてきた。城址公園まではあと少しだ。
後編へつづく
掲載日付:2008/01/30