久しぶりに新年を新宿で迎えた。
8年前、仕事の拠点を東京に移した。一度は別の場所に居たものの、新宿にアトリエを移してからあとはずっとこの街にお世話になっている。
振り返ってみれば言い尽くせないほど、新宿で過ごしてきたさまざまな思い出が走馬灯のように、といったら月並みな言い方だけれど、僕の頭のなかを駆け巡る。新宿は僕にとってはまさに「ホーム」といっても過言ではないほどかけがえのない街となっているのだ。
しかし実を言うと、新宿に住み始めた当初はこの街でやっていけるのか不安だった。僕は日本の自然や四季の移ろい、古民家や風情といったものを作品のテーマにしている。けれど新宿という街は僕のテーマとはおおよそ対極にあって、フルスピードで時代の先端へと日々変化し、悪く言えば機能や流行ばかりを重視して、人間らしく生きていくには難しい土地だと思っていた。アトリエにするには良い場所が見つかったけれど、こんな無味乾燥した騒々しい街で僕は作品のテーマを見出せるのかと悩んだりしたこともあった。
その憂いを払拭してくれたのが新宿御苑だった。
正直なところ、新宿御苑がなければ僕はこの街でやっていけなかったかもしれない。あの自然があるからこそ僕は新宿を拠点にして今までやってくることが出来たし、これからもがんばれる気がする。華やかな都会の中にいて自然の移ろいを感じ、必ず巡り来る季節を思う。目線を上げれば木々の間から超高層ビルがいかめしくかたまり、並んでいる。しかし目線を自分の目の高さや少し下を見るとどうだろう。そこにあるのは季節を彩る花々だったり、静かな池を泳ぐ魚だったりする。そんな光景を見ていると、自然は人間にとって心の拠りどころだと思わずにはいられない。新宿御苑は僕の庭だ、なんておこがましく思ってしまうほど愛着を持っているのは確かなのだ。
もちろん僕が新宿を「ホーム」と呼ぶには他にも理由がある。その最たるものは人との出会いだろう。仕事にしろ飲み屋にしろ、僕の人生にとってかけがえのない出会いがたくさんあった。僕は今、新宿三丁目卓球同好会の会長をしているけれども(僕を除いていずれも強豪揃い!)、そのメンバーは役者あり、飲食店経営者あり、サラリーマンあり、芸術家あり、といろんな職業に就く人々で構成されている。いずれのメンバーもこの新宿で新しく出来た仲間ばかりだ。出会いが増えればその分世界が広がる。刺激を受けることも多い。僕の仕事は誰かと共同で物を創り出すのではなく、あくまで机上でコツコツと一人でやるものだ。だからアトリエにこもろうと思えばいくらでもこもれる仕事だけれども、それだけじゃ新しい作品は生まれない。アトリエを出て、街へ飛び出す。新宿はまた利便性もバツグンだから、ひょいと電車に乗ってしまえばどんなところへだって行ける。そして僕はまた人と出会い、自然と出会い、パワーをたくさんもらって来て作品をつくりあげる。新宿は僕にとって今やホームだけれども、「プラットホーム」でもあるのだ。自然が極端に少ない土地にいるからこそ、自然や風景を求める気持ちが強くなる。そしてそれを後押ししてくれるのも実は新宿なのだ。
新年を迎え、新宿を振り返ってみて新たな気持ちになった。普段当たり前に思っていることが実際はどれほど有難いものかは、自分で気づかない限りちゃんと見えてこない。感謝の気持ちを再認識して、僕の新しい年が始まった。気を引き締めるためにも初詣はアトリエ近くの花園神社で無事済ませ、その後寄席でお馴染みの末廣亭で初大笑いしたというのはもちろん言うまでもない。
掲載日付:2008/01/16